Lost Knight
〜迷子の騎士〜

『偽りを今までずっと信じていたと知ったらどうする?』
『すべてを知って、受け入れられる勇気がある?』
誰に問われているのかわからない。
けれど答えねば進めない気がした。
だから、答えた。
あたしは・・・。


 
今日は珍しく目が早く覚めた。
まだ桜も迎えに来ていない。
しかし、すぐに桜は迎えにこないということを思い出す。
あの試合の喧嘩の時以来桜は朝南を叩き起こしに来なくなったのだ。
まだ許されていない、ということなんだろうか。
そいえば学校でもほんのちょっとよそよそしいかもしれない、と今更のように思い出す。
ちょっと寂しいが、完璧に南が悪いのでなんとも言えない。
謝り倒して許してもらうしかない、と思いベッドから飛び起きて気合いを入れる。
今日は早く起きたから桜を迎えに行くのもいいかもしれない。
善は急げ、南はとっとと着替えて下に駆け下りていった。
下に行くとまだ誰もいなかった。
めんどくさい、と感じながらもみそ汁を作るべく、鍋を取り出す。
 
・・・そういえば、みそ汁ってどうやって作るんだっけ・・・?
 
しばらくの間、約4年前に授業で作ったみそ汁の手順を思い出そうと努力してみる。
しかし、どうやっても煮すぎて具がぼろぼろになった仕上がりの部分しか思い出せない。
しかも味が破壊的にまずくて誰も最後まで食べきれず、味付けの担当だった南がすべて
たいらげた、という最悪の思い出だった。
今思い出しても吐き気がこみ上げてくるほどのまずさだった。
自分には料理の素質はないと思い、同時にみそ汁を作るのも危険だと悟った。
ふと時間を見ると7時10分。
南の家から学校までそれほど遠くはないため、時間はだいぶある。
どうしようかと少し迷った後、散歩がてらに朝ご飯を買うことが決定した。
買ったらすぐに通学路に行き、桜を待ち伏せすればいい。
南は紙に『いってきます みなみ』とすべて平仮名で殴り書きの置き手紙をし、鞄をひっつ
かんで家を飛び出した。
朝の空気が体にしみこんでくる。
早起きがこんなに気持ちのいいものだなんて思いもしなかった。
たまには早起きもいいな、と思う。
スキップしたくなるのを周りの目を気にしてこらえつつ、コンビニまで軽い足取りで行く。
昼ご飯代わりのパンとおにぎりを一つ買って時間を見てみるとまだ7時25分。
まだ多少時間はある。
近くの公園で少し休もうと思い立ち、すぐさま公園へ駆けていった。


しっかり手入れされている綺麗な公園には全く人影がなかった。
自分の特別な場所のように感じて少し嬉しくなる。
さほど汚れていないベンチに座り、おにぎりの袋を開ける。
うきうき気分で一口かじる。途端に急に辺りがうっすらと陰った気がした。
風もないのに、南の長い髪が揺れる。
「え・・・?」
誰もいなかったはずの公園に少年が一人。
試合だった日に会ったユウヤと名乗った少年だった。今日は制服を着ている。
「え・・・。ウチの学校だ・・・」
ユウヤがゆっくりこちらに向かって歩いてくる。
それを目で追いつつ、おにぎりをもう一口かじる。全く味がわからない。
「こんにちは」
南の真ん前まで来て、立ち止まりあの日と同じ挨拶をした。
「・・・今、朝なんスけど」
なんとなく、立ってユウヤと向かい合う。睨みつけると冷笑で返してきた。
この前は感じなかったが、結構背が高かった。年上なのかもしれない。
「ねぇ。君、自分のこと考えたことある?」
「は?」
思わぬ問いに、少し身構えていた南は拍子抜けした。
「自分のこと?」
問い返すとユウヤは笑みを浮かべたまま答える。そして、また口を開いた。
「信じる者が偽りで、信じてきたモノが偽りで、何もかも、自分さえも偽りだったら、と考え
たことはある?もし、そうだったらどうする?」
「・・・そんなもん、考えたこともないし、そうだった時なんて予想できねぇよ」
わけのわからない問いに少し口調が荒くなるが、相手はそんなのお構いなしに、次々に言
葉を繰り出してくる。
「ふぅん。想像力ないなぁ。まぁ、いいからその足りない頭でよく考えろよ。自分が今信じ
ている者は?信じていたモノは?真の自分の姿は?想像力を絞り出せよ。まぁ、今すぐ答
えを出せっていうのも無理かもしれないから、少し猶予をあげるよ。ほら、俺ってめちゃくち
ゃ人がいいから。今度会う時まで。絶対にそのときに答えてもらう」
南が口を挟む暇もなく、そこまで一気に喋りきるとユウヤは南に一歩近づいてきた。
思わず身を引こうとした南の腕を思わぬ力で引き留める。力加減ができなかったのか、多
少痛みを感じてうめくと、少しだけ力が緩んだが離してもらえそうな気配はない。
「最後に、一つだけアドバイスしといてあげるよ」
冷笑を浮かべたままのユウヤの顔がすぐ近くにある。妙な威圧感があった。
押さえられていないほうの手で握り拳を作るが、それを振り上げることができない。
全身が熱くなってくる。怒りで頭が沸騰しそうだ。なんであたしはこんな見ず知らずの奴に
こんな失礼なことをされなきゃならない?だけど体は動かない。
「君は気が短いようだけど」
そこまで言って、ユウヤはふっと眉をひそめた。
急にバッと南の手を離し、南から2、3歩飛び退いて距離をとった。
そのあまりのすばやさに南が目を瞠ったほどだった。
南の手を握っていたほうの手を痛そうにさすっている。けがでもしたのだろうか。何で?
「・・・何?怪我したのか?」
ユウヤが少し迷って首を振った。けれど、まだ痛そうに手をさすっている。
「なんでもない。まぁ、いい例ができたよ。君は気が短いようだけど、あんまり熱くならない
ほうがいいよ。怪我人が出るかもしれないからね」
そう言ってくるりを背を向ける。
この前はそうやってすぐに逃げられたが、今日はそういうわけにはいかない。
このわけのわからない少年の正体を掴んでおかねばならなくなった。
今は怒りはないが、これほどまでに不愉快な思いはしたことがない。
南は急いでユウヤを引き留めた。
「おいっ。ちょっと待てっ。最後に一つ!」
ユウヤがちょっとだけ嫌そうに振り返る。その顔にまた腹が立つがそれを押さえて問う。
「お前は、何者なんだ?」
ユウヤが冷笑ではない、笑みを浮かべる。擬音をつけるならニヤリ。むかつく笑いだった。
「さぁね。それはまた今度」
そう言って今度は完全に去っていった。どうやって去っていったのかわからないが、急に消
えていったような気がした。
南はしばらくの間ユウヤが去っていった方向をじっと見つめていた。
『偽りを今までずっと信じていたと知ったらどうする?』
『すべてを知って受け入れられる勇気がある?』
誰に問われたのだろう。これは先ほどユウヤがしてきた質問とよく似ている。
答えなきゃならない。ユウヤと次会うまでに。
ユウヤに言われたことを必死に考えるのは癪なのだが、答えなきゃ前に進めない。
そんな気がした。だから必死に考える。
足りない頭で、必死に想像力を絞り出す。
すべて偽り。すべてが虚像。
「あ、そうか」
信じている者が偽りなら、それごと愛せばいい。
信じていたモノが偽りなら、それごと信じればいい。
自分さえも偽りなら、本当の自分を探し出せばいい。
なんて簡単なんだ。
テストの難問がすっきり解けたような気分だった。こんな簡単なことだったのだ。
すっきりしたところで、鞄をベンチから取り上げ時間を見てみる。
8時27分。完璧に遅刻だ。遅刻以外のなにものでもない。
結局桜待ち伏せ計画は台無し。早起きしてもいいことなど一つもないではないか。
「どれもこれも全部あいつのせいだぁっ」
全速力で走っていきながらユウヤに呪いの言葉を吐く。
それでも駆けていく足取りは軽かった。
偽りでも、虚像でも関係なんてこれっぽっちもない。
自分の信じたものが真実だと信じる。
この先、何があっても。





 
 
 
ごめんなさい。ごめんなさい。おまけにもひとつごめんなさい。
こんな駄目な文でごめんなさい。雑でごめんなさい。
ごめんなさいしか言えなくてごめんなさい。
3に続きます。ごめんなさい。(しつこい